阿波市移住者インタビュー (第1回)|株式会社ベリーメイトファーム 代表取締役 宮田 大貴さん

 

徳島県阿波市土成町には大人気のいちご観光農園がある。それが今回お邪魔した、「ベリーメイトファーム」だ。主軸に置くいちごの生産、加工、販売、いちご狩りにキッチンカー営業に加えて、ぶどう栽培の事業も営む。商品の品質は高く、加えて宮田さんの人柄も相まって多くのファンに支持されている。

 

 

そんな農園をいちごのシーズン真っ盛りの5月に訪問。車を降りるやいなや、あっという間に鼻を通り抜けていく甘酸っぱいいちごの香りに思わずごくりと喉を鳴らせてしまう。取材前にも関わらずついつい、「食べたいなあ」とつぶやいた時、笑顔とともに代表の宮田大貴さんが出迎えてくれた。

Uターン後、全くの未経験の、まさにゼロの状態から大きく事業を成長させた宮田さん。阿波市での暮らしの様子はもちろん、どのような思いで新規就農をしたかについてお伺いした。

 

 

Uターンを決意した大学時代

 

阿波市出身の宮田さんは中学卒業後、宮城県の高校と神奈川県の大学に進学。もともとUターンをする予定はなく、就職活動では興味のあった都内の商社や飲食業界を受けていた。ところが、冬休みのある日に転機が訪れる。家に帰った宮田さんは、家族から障がいを持つ弟の話を聞く。「弟の事を思ったら、このまま関東にいても何も出来ないなと思いました」。

 

色々と考えた結果、いずれは徳島に帰って農業とNPOをしようと決意。家が農家だったわけではない。学校で農業を学んだわけでもないけれど、弟と一緒に仕事が出来る場所を作りたい。それなら、農業しかないと思った。また、同級生の存在も大きかった。「農家をしている友人が阿波市にいるので、もし何かあっても色々と話が聞けるし、なんとかなる気がしました」。やがて、一旦は社会人経験を積もうと再び就職活動をはじめた宮田さんは、埼玉県にある農福連携のNPO法人に入職。業務を学んだ後、阿波市に帰ってきた。

 

 

持ち前の行動力で乗り切った、就農一年目

 

 

Uターン後、早速起業準備に取り掛かる。真っ先にした事が、税理士探しだった。農家としてやっていくにはお金の管理が重要で、自分で出来ない事は専門家に任せる事にした。次に、何を作るかについてだが、将来NPOの立ち上げを見据えていた宮田さんには明確な基準があった。「金額面とか、作業する方の環境や負荷を考えたら施設園芸やなと。他にも、作業量が多い事や反収の高さとか色々なものに使えそうなのはと考えて、いちごに決めました。ちょうどこの時、おじの知り合いでいちご農家をしてる方にお会いして、栽培方法やハウス施工について教わりました。ありがたかったですね」。さらにそこへ、宮田さんの考えに賛同した大学時代の友人が一緒に働きたいと阿波市に移住。心強い仲間も増えて、準備は順調に進んでいるかのように見えた。

 

ところが、初めの一年間はスタートアップを支えてくれると期待していた補助金が受け取れず苦労した。「条件が合わず、青年等就農資金(*1)がもらえませんでした。初年度は本当にお金がなかったですね」。だからと言って、何もしないわけにはいかない。宮田さんは、ブロッコリーを作る事にした。機械もない状況の中、七反の畑に35,000本ものブロッコリーを手で植えたというから驚きだ。とは言うものの、体力のある宮田さんもさすがにこの作業は大変だったようで、気がつけば畑で寝てしまう事もしばしば。さらに、「補助金や助成金はいつ通るんかな。いちごの準備も進まんし」と、毎日心配事は尽きなかった。しかし、明けない夜はない。次年度には補助金が通り、事業も軌道に乗り始めた。

 

 

やりがいのある、仕事中心の暮らし

 

 

現在ベリーメイトファームでは、いちごやぶどうの生産、キッチンカー、加工品、いちご狩り、いちごの直売といった生産販売をメインに事業を営んでいる。また、6次化(*2)としてはジャムの商品開発(*3)を進めていて、今後県内の産直市場に商品が並ぶ予定なのだそう。いちごを中心に、ますます増える業務量。当然、一日の暮らしも仕事を中心にしてまわる。「朝早く起きてすぐ仕事をして、夜遅くに寝る生活ですね。今のいちごのシーズンはもちろん忙しいですけど、それ以外の時期もぶどうをしたり、夏には圃場の整備工事やキッチンカーの準備。次のシーズンに向けた苗の芽かきなどもありまして」。それでも、宮田さんはどこか楽しげ。続けて「僕がお役御免になる時のゴールは決まってるんで、そこまでは走り続けたいですね」と目を輝かせながら話してくれた。

 

 

目に見える範囲の方達の受け皿を作りたい

 

 

では、そのゴールとは何か。質問をしたところ迷わず、「アパートを作る事です」と宮田さん。「弟を含めて、事業所を利用される方たちが生活出来るアパートを作りたいです。寮母さんも安定的に雇えるようにしたい。それが出来たら僕はお役御免です。将来、NPOにするか社団法人にするか、今の法人と一緒にするかはわかりませんが就労継続支援B型事業所(*4)をするつもりです。色々な障がいを持った方たちに、それぞれの特性を活かしながら社会に必要とされるような仕事をしてもらいたいです」。

 

Uターンしてから阿波市で大活躍中の宮田さん。彼の原動力は自身に秘めたゴールへの熱意であり、それは目に見える範囲の方たちの受け皿を作りたいという強い思いに支えられたものだった。

 

 

阿波市に移住する方へのアドバイス

制度を上手く使う事と頼れる人を探す事が大切です。僕自身、いろいろと経験しましたので、新規就農に関する具体的なアドバイスも出来ます。また、一からいちご農家をやってみたい方をサポートする取り組みを今年の10月頃から始める予定です。興味のある方はぜひ、お気軽にご連絡ください。

(*:詳細については、今後公式インスタグラムにて公開される情報をご参照ください)

 

阿波市のおすすめポイント

ガソリンが安い事やアクセス面の良さだと思います。どこかに行く時、昔は自転車だったので苦労しましたが、車があれば楽ですし高松も割と近いです。あとは、空が広いところでしょうか。

 

<キーワード>

*1
青年等就農資金:新たに農業を始めるために必要となる資金を無利子で貸し付けられる制度。市町村から受ける青年等就農計画の認定に加えて、いくつか要件を満たす必要があります。詳しくは、各市町村にお問い合わせください。
(ご参考ウェブサイト:阿波市農業振興課あわあぐり

*2
6次化:生産(1次産業)と加工(2次産業)と流通販売(3次販売)を合わせた言葉。自ら生産し、加工のうえ販売する取り組み。

*3
ジャム:詳細については、今後公式インスタグラムにて公開される情報をご参照ください。

*4
就労継続支援B型事業所:障がいや病気のために一般企業で働く事が難しいとされる方向けに、働く場所や生産活動の機会を提供する事業所の事。